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W-1 2050年1月1日 第3話

連載SF小説『パラレルワールド』
第1章 W-1 2050年1月1日 第3話
(この投稿は、フィクションです)

「おお、光太郎元気だな。日本に降りたのは半年ぶりだな。」

寛康は、光太郎に声をかけたあと、麻子から湯呑みを受け取ると、お茶のお手前のごとく上手に初湯を飲み干した。

光太郎は、寛康が初湯を飲み干すのをまって、さっそく話はじめた。

「ひろちゃん、東京の新しいおうちにあそびにいっていい?それから、サッカーしようよ」

「光太郎、ちょっとまってなさい、大人の話がすんでから」

麻子が光太郎に声をかけるが、光太郎はいっこうに話すのをやめない。

「ひろちゃんのうち、いついけるの?ねえ、ねえ」

「正月の東京は、年に一度のシステムメンテナンスの時期で、来てもおもしろくないよ。正月があけて、再来週だったらいいよ」

寛康はそういうと、父敏郎に向かって

「とうさんも、その時来るといい。あたらしいコスモポリスがオープンするからね。」

「おお、それは楽しみだ。しかし、東京に行くのは久しぶりだな。今から申請しとかないとな」

そういうと、敏郎は端末をとりだして、入国申請のアプリを起動した。

「1月11日でいいかな、この日だとすぐに上がれるぞ」

寛康がうなづくの見計らって、申請ボタンを押す。

端末には、すぐに

「日本20年1月11日出国許可(日本国)・入国許可(東京国)」

と表示された。

2050年の、日本国の年号は、日本となっていた。

さかのぼること20年前の2030年、つまり日本元年、それは、日本が大きく転生した年であった。

2030年、Japanは、消滅した。

それは、戦争で負けたとか、財政的に破綻したとか、そういった生やさしいものではなかった。

2027年に起きた富士山の噴火、そして、翌年おきた関東・南海トラフ連動大地震により
東京はもちろん、名古屋、大阪といった都市部は壊滅的な打撃を受けた。
そこに、感染症が襲いかかった。

生き残った人々は、
都市部から郊外へ
日本から海外へ

と移っていった。

それまでの震災や戦災に比べ、被害が大きすぎた。

それだけではない。

その3都市を復興させるだけの余力が、日本はおろか、世界中の国に、なかった。

どこの国も、「自国ファースト」となり、

人材流出が進みぼろぼろすかすかになった日本に、金融資本家は、関心も興味も抱けなかったのだ。

主要3都市に関しては、震災から2年たって、建設復興の放棄が決まった。

そして、日本国Japanは消滅。

復興を放棄した、東京エリア、名古屋エリア、大阪エリアはそれぞれ放棄国家として独立させ、

残りの国土を元に全く新しい国として日本国Nipponがスタートしたのだ。

それが、2030年、日本元年のできごとであった。

(参考図書 苫米地英人著『100年後の日本人』(角川春樹事務所))

W-1 2050年1月1日 第2話

連載SF小説『パラレルワールド』
第1章 W-1 2050年1月1日 第2話
(この投稿は、フィクションです)

光太郎は、麻子から湯呑みを受け取ると、お茶のお手前のごとく上手に初湯を飲み干した。

麻子と敏郎の11番目の子である光太郎がこの家にきたのは、1歳になる前であった。

11人いる子のうち、養子となってこの家に来たのは10人。

この家に限らず、養子縁組はめずらしいことではない。

むしろ、歴史を遡れば、太平洋戦争後のおよそ80年間が不思議な時代だった。

アメリカの占領政策により、日本は貨幣主義と核家族化が進み、養子縁組はほとんど行われなくなった。

つまり

お金がすべてという社会風潮と

産んだ両親があらゆる責任をもって育てなければならないという社会風潮とともに。

その結果、一時は1億2000万人を超えた人口が

2008年をピークに人口減少の一途をたどり、2030年には約半分の6000万人まで減少した。

目立った社会的事象は、3つある。

1つは、少子化。

1973年(209万人)をピークに、出生数は減少の一途をだどり、2024年には72万人、そして2030年には45万人にまで落ち込んだ。

2つ目は、日本経済の悪化。

1990年代以降日本のGDPは下がり続けたものの、デフレ政策によりなんとか表面化をおさえていた。
しかし、2024年に米の価格がほぼ2倍にまで上がったのを皮切りに、インフレが進み、、収束しないまま、第一次世界大戦後のドイツなみのハイパーインフレとなった。いわゆる、令和のスタフグレーションである。当時の日本政府は、それまで一度も償還したことのない米国債を売ろうと画策するも、結果、そのことが世界の通貨制度にショックを与え、日本にとっては1990年代におきたバブル経済の破綻以上の経済破綻を起こしたのだ。さらに、生成AIによる社会構造変化により、ホワイトカラーが大量に失職。すでに高齢化していた日本の農・工業に人材がシフトせず、労働者不足が露呈し、昭和・平成・令和と続いた戦後日本経済の構造が完全に破綻したのだ。戦後安定政権をになってきた自由民主党は分裂し、多党乱立により政権は安定せず、人口回復への施策などもはや空想となっていた。

3つ目は、天災による高齢者の大量死と海外移住である。

2020年に世界を襲った感染症により高齢者を中心に死者が出るも、大量死には至らなかった。
しかし、その後2027年に起きた富士山の噴火・そして翌年おきた関東・南海トラフ連動大地震により、関連死をふくめ100万人が亡くなったのだ。
亡くなっただけでなく、この頃から日本を捨て、海外移住者が続出するようになる。さらに悪いことに、2028年から新たな感染症が流行。医療制度がおいつかず、あれよあれよといううちに、日本の人口は6000万人にまで減少してしまった。

敏郎と麻子はいわば、そんな時代の生き残りであった。

光太郎がこどもらしからぬ所作で湯呑みを置くと、ちょうどそのとき、チャイムがなった。

「あけまして、おめでとう」

それは、今年50歳を迎える寛康であった。

(参考図書 苫米地英人著『2050年衝撃の未来予想』(TAC))

W-1 2050年1月1日 第1話

連載SF小説『パラレルワールド』
第1章 W-1 2050年1月1日 第1話
(この投稿はフィクションです)

「あけまして、おめでとう。今年もお願いいたします」

敏郎は昼近い11時に目を覚ましてダイニングに降りると、正月のおせち料理を並べている麻子に今年はじめの第一声をかけた。
麻子は、お気に入りの麻模様の着物を着て、お膳の用意をしながら、敏郎の方を向くと、きちんと正座をして頭を下げた。

「本年も、どうぞよろしくお願いいたします。」

敏郎は近くの神社の役員をはじめて、かれこれ50年がたつ。

毎年大晦日は近くの神社の初詣のため、深夜から朝方3時まで立ちっぱなしで、だいたい毎年、正月1日の起き出す時間は昼頃となる。

お正月に着物を着るのは、毎年の決まりとなっている。
そのほかには、お茶室でお茶を点てるときと、能を鑑賞するときくらいだが、はやり着物はいい。
お気に入りの大島紬を着て、和室にすわる。

麻子は麻子で、普段からできるだけ着物をきて生活している。
それがしたいために、結婚してから15年目の年に、わざわざ数寄屋造りの日本家屋を新築したくらいなのだ。
ただ、正月とあって、普段は着ない、桃色の着物に緑の帯をしめている。
着物の後ろ姿はいつみても美しく、前日初詣の神社のお勤めで寝不足もあいまって、敏郎はつい目を細めてしばらくぼーっとしていた。

「さあ、初湯をいただきましょう」

敏郎の家では、新年最初に口にするのは、湯呑みに梅干しと砂糖を入れた湯と決まっている。
そうこうしているうちに、息子の光太郎が起きてきた。

「あけまして、おめでとう、ございます」

光太郎はそういうと、正座をし、初湯をねだった。

麻子と敏郎はこの年80歳。光太郎は8歳、二人にとっては11人目となる子であった。

(参考図書 苫米地英人著『2050年衝撃の未来予想』(TAC))