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W-1 2050年1月1日 第2話

連載SF小説『パラレルワールド』
第1章 W-1 2050年1月1日 第2話
(この投稿は、フィクションです)

光太郎は、麻子から湯呑みを受け取ると、お茶のお手前のごとく上手に初湯を飲み干した。

麻子と敏郎の11番目の子である光太郎がこの家にきたのは、1歳になる前であった。

11人いる子のうち、養子となってこの家に来たのは10人。

この家に限らず、養子縁組はめずらしいことではない。

むしろ、歴史を遡れば、太平洋戦争後のおよそ80年間が不思議な時代だった。

アメリカの占領政策により、日本は貨幣主義と核家族化が進み、養子縁組はほとんど行われなくなった。

つまり

お金がすべてという社会風潮と

産んだ両親があらゆる責任をもって育てなければならないという社会風潮とともに。

その結果、一時は1億2000万人を超えた人口が

2008年をピークに人口減少の一途をたどり、2030年には約半分の6000万人まで減少した。

目立った社会的事象は、3つある。

1つは、少子化。

1973年(209万人)をピークに、出生数は減少の一途をだどり、2024年には72万人、そして2030年には45万人にまで落ち込んだ。

2つ目は、日本経済の悪化。

1990年代以降日本のGDPは下がり続けたものの、デフレ政策によりなんとか表面化をおさえていた。
しかし、2024年に米の価格がほぼ2倍にまで上がったのを皮切りに、インフレが進み、、収束しないまま、第一次世界大戦後のドイツなみのハイパーインフレとなった。いわゆる、令和のスタフグレーションである。当時の日本政府は、それまで一度も償還したことのない米国債を売ろうと画策するも、結果、そのことが世界の通貨制度にショックを与え、日本にとっては1990年代におきたバブル経済の破綻以上の経済破綻を起こしたのだ。さらに、生成AIによる社会構造変化により、ホワイトカラーが大量に失職。すでに高齢化していた日本の農・工業に人材がシフトせず、労働者不足が露呈し、昭和・平成・令和と続いた戦後日本経済の構造が完全に破綻したのだ。戦後安定政権をになってきた自由民主党は分裂し、多党乱立により政権は安定せず、人口回復への施策などもはや空想となっていた。

3つ目は、天災による高齢者の大量死と海外移住である。

2020年に世界を襲った感染症により高齢者を中心に死者が出るも、大量死には至らなかった。
しかし、その後2027年に起きた富士山の噴火・そして翌年おきた関東・南海トラフ連動大地震により、関連死をふくめ100万人が亡くなったのだ。
亡くなっただけでなく、この頃から日本を捨て、海外移住者が続出するようになる。さらに悪いことに、2028年から新たな感染症が流行。医療制度がおいつかず、あれよあれよといううちに、日本の人口は6000万人にまで減少してしまった。

敏郎と麻子はいわば、そんな時代の生き残りであった。

光太郎がこどもらしからぬ所作で湯呑みを置くと、ちょうどそのとき、チャイムがなった。

「あけまして、おめでとう」

それは、今年50歳を迎える寛康であった。

(参考図書 苫米地英人著『2050年衝撃の未来予想』(TAC))